恋の大江戸捜査網!

 いくさも無くなってだいぶ経つ。世の中は天下泰平。 

 空は晴々、富士山もきれいだ。 

 今日も大江戸は、にぎわっている・・・ 



 ヨシムネくんは町一番の暴れん坊だ。 

 マブダチのタダスケはそんなヨシムネくんが危なっかしくて心配でしょうがない。 

 そんなヨシムネくんは、タダスケを呼び出した。どうやら頼みごとがあるらしい。 

「なあ、タダ、ちょっとお願いがあるんだけど」 

「なんすか?ヨシムネくん。またおかしなことはいやですよ」 

「たいしたことじゃないって・・・あのね、人探してほしいだけ」 

「人っすか?誰です?」 

「この前、馬で走りにいったろ?その時、寄った茶店にいた娘」 

「茶娘っすか!・・・そういえばかわいいコがいたような」 

「このまえ、こっそり寄ったんだよね。でも茶店がなくなっていてさ。そこでタダに頼みたいんだ
よ。タダは、人探し得意 
でしょ?」 

「得意って・・・いつもヨシムネくんに強引に命令されてたから勝手にスキルがついただけっす
よ」 

「なんか、文句あるの?」 

「ま、また刀を抜こうとする・・・やめてくださいよ、そーゆーの」 

「ごめん、俺って、暴れん坊だからさ」 

「まあ、やってみますけど、あんまり期待しないでくださいよ・・・ってまた刀抜こうとするぅ!」 

 ヨシムネの無理難題はいつもの事。 

 タダスケはいつもそれに振り回される。今回は一目ぼれした娘を見つけ出すことだった。 





 タダスケは愛馬”絶闘”にまたがり、仲間のところに向かった。 

「タダスケじゃねーか?どうしたんだ?」 

 障子を開けて出てきたのは大柄な男で、キセルを吹かしてタダスケに声をかけた。 

「うん、実はヘイゾーくんに頼みがあってきたんだ」 

 彼は江戸広域を仕切る暴走集団「飛つけ」の頭、ハセガワ・ヘイゾー。顔が広いので人探しで
は頼りになる。ヘイゾ 
ーもヨシムネくんの仲間だ。荒っぽいが人情に厚いイイ奴だ。 

「実はまたヨシムネくんから頼みごとをされちゃって・・・」 

「おめえもたいへんだなぁ、あんな暴れん坊の世話をしなけりゃならないなんて」 

「まあ、ヨシムネくんも悪いやつじゃないけど強引なところが玉に傷だから・・・」 

「おめえ、少しやつれてんぞ。で、今度は一体、なんだ?」 

「実は、この前、”走り”にいったろ?そこで寄った茶店のねーちゃんに一目ぼれしたらしいん
だ。だけどその茶店がな 
くなっちまっておねーちゃんの行方もわかんねえ」 

「それで、おめえに探せってんだな?まあ、俺らもいろいろ探してみるわ」 

 ヘイゾーは快く、人探しの手伝いを引き受けてくれた。 





 そのあとタダスケは山に向かった。 

 一見、人気の無い山の中。実はここにもタダスケの仲間がいた。人探しは得意分野の連中
だ。山奥のある場所に 
来るとタダスケは大声で叫んだ。 

「おーい、誰かいないか!」 

 草むらで何かが動いた。タダスケがそれに注意をとられていると背後にいきなり何かが乗っ
た。馬が暴れだす。タダ 
スケは慌てて手綱を引いて馬を押さえ込んだ。 

 背後にまたがっていたのは黒頭巾で黒装束の男だった。 

「ま、また脅かすんだからぁ・・・やめてよ!ハットリくん!」 

「すまん、すまん。拙者、忍者だから忍者らしく登場しようと思ってさ、でござる」 

「”ござる”の使い方間違ってるし・・・」 

「で、なんの用?」 

「あのですね、またヨシムネくんに・・・わっ!消えた」背後にいたはずのハットリくんは丸太に変
わっていた。 

「う、ウツセミの術・・・さすが伊賀者・・・って感心している場合じゃないよ。ハットリくんどこっすか
ー!」 

「ここだよー!でござる」ハットリはタダスケの目の前に現れた。 

「だから、ござるの使い方間違ってるって」 

 タダスケは馬から降りた。 

「ハットリくん、通信簿に落ち着きのない子ってよく書かれたでしょ?」 

「なぜ、知ってるんだ!お主、忍びか!」 

「わかりますよ。それより、話、聞いてくださいよ。実は、またヨシムネくんに頼み事されちゃっ
て」 

「知ってる、茶店の娘を探せって言われたんだろ?っでございまする」 

「あんた、かなり使い方間違ってますよ。でも、よく知ってますね」 

「拙者、伊賀者だからな」 

「ヘイゾウにも頼んだんスけど、ハットリくんにも探すの手伝ってもらえませんかねえ?」 

「いいだろう、タダスケにはいろいろ借りがあるし、わが、伊賀忍軍にまかせなさい。にんにん」 

ハットリはそういうとケムリ玉を取り出して地面に投げつけた。白煙とともにハットリくんは消え
た。 

  





数日後・・・ 



「タダ!タダ!」 

「はい、はい、何すか?ヨシムネくん」 

「その後、見つかった?あの娘」 

「い、いや、まだです。すんません」 

「もう、まだなんだぁ、ところで、あの娘を思って歌を書いたんだ。聞いてよ」 

「あの・・・用事を思い出したんで」 

「聞け!」 

「だから、また、刀抜くぅ〜。わかりました。聞きますよ」 



茶店でね 

あったあの娘は抹茶のよう 

そのこころは 

見つかるまで 

いつでもまっちゃう 



「歌っすか・・・それ?」 

「オチがいまいちだったかな」 

「ヨシムネくん、間違ってます・・・」 







 ヨシムネに催促されたものの、いまだにヘイゾーからもハットリくんからも何の連絡もない。タ
ダスケ自身も茶店にあ 
った周辺を聞き込みをしたがなんの情報も得られなかった。というより茶店があったことを知ら
ない人間の方が多かっ 
た。 

 何か不自然なことを感じる・・・ 

 そう思いながら歩いていると松の木に人影を見つけた。 

「あ!ハットリくん。何かわかった?」 

「そのことだが・・・ちょっといいでござるかな?」 

 二人は茶店のあった道を歩いた。 

「あれ?あの茶店は・・・」 

 無くなっていたはずの茶店が開いていた。中から探していた娘がお盆をもってお辞儀をた。 

「あっ!見つけたんだ。さすが、ハットリくん」 

「いや、そのことでごじゃりまするが・・・」 

「ごじゃるって・・・ハットリくん、あんた何者?」 







「えっ!みんなヤラセ?」 

「知ってのとおり、わが伊賀忍軍はトクガワにお庭番として使える身。つまりシークレットサービ
ス。次期、将軍である 
ヨシムネくんの警備を秘密裏に行うのも我らが勤め」 

「それで、おれたちの話を知ってたりしてたのか・・・」 

「左様、実は、ヨシムネくんのまわりには常に五十余名ほどの配下が密かに付き添っているの
だ」 

「で、あの茶店を警護の為に先回りした伊賀者たちってことなの?」 

「そのとおり、それで役目が済んで茶店は撤去した。あの茶店娘も配下の者でござる」 

 ハットリくんが手を叩くと茶店娘がお茶とお団子を運んできた。 

「お銀と申す」 

「そうなんだ?では、話が早い。そのまま茶店の娘のフリして来てくれない?」 

 お銀は目を伏せた。 

「それが問題で・・・実はこのお銀・・・ごにょごにょ」 

「えーっ!」 

 タダスケは後ずさりした。 

「お、おとこだって?」 

 お銀はうなずいた。 

「男に見えないっす。そこらの女の子よりかわいいっすよ」 

「菊の介でございます」 

 お銀は、タダスケに再び、お辞儀をした。 

「声は男なんだ・・・」 

「左様、このままヨシムネくんに会わせても声でバレバレでござる」 

「うーん、そうだよな・・・だけど、彼女いや彼を合わせないとヨシムネくん、うるさいし・・・」 

「そこで、でざる・・・ごにょごにょ」 

「ふん、ふん、なるほど・・・でも、うまくいくかな?」 

「やってみる価値はあるでござるよ」 

「そうだな・・・じゃあ、俺はヘイゾーや他の奴らにも声をかけてみるよ」 

「よろしく、でござる」 

「ところでハットリくん、なんか、配線が正しくなってきましたね」 

「そうで、ござーるか?」 

「わざとやってるでしょ・・・」 







 次の日タダスケは、茶店の娘、お銀を見つけたとヨシムネくんを連れ出した。 

「さすがタダスケだよね。こんなに早く見つけちゃうなんて」 

「はい、まあ・・・あの、お銀さんはこの先で待っているはずですから」 

「あれ?お前はこないの?」 

「いえいえ、そんな、せっかくのセッティングです。あとは二人っきりでどうぞ」 

「気が利くじゃない。それじゃ、あ・と・で・ね」 

 タダスケは手を振って見送った。 

「あんなに、うれしそうに・・・ちょっと気が引けるな」 

 タダスケの横にいつの間にかハットリくんが立っていた。それとヘイゾーだ。 

「上手くいくかな・・・」 

「おう、おう、俺に隠れておもしれえ事、やってんじゃねえか」 

「あ!キンさん!」 

 三人の前に南町を仕切る遠山のキンさんが現れた。 

「町でヘイゾーの手下が騒いでやがるから、何かあるなと思ってな・・・一体、何しようったんだ
い?」 

「ちょっと、ヨシムネくんにあきらめごとをしてもらおうと思ってね」 

「まず、仕込んだ刺客にヨシムネくんを襲わせるでござる。刺客役はヘイゾーに手配してもらっ
たでござるよ」 

「おう、ヨシムネくんに面の割れてないのを何人か用意した。そこそこできる連中だから手加減
を知ってる」 

「刺客たちに派手に立ち回らせて菊の助・・・いや、お銀には巻き添えをくって崖下に落ちてもら
うという段取り。もちろ 
ん、落ちたふりでござるが」 

「なるほど、それでヨシムネくんには、お銀ちゃんのことをあきらめてもらうというわけだ」 

「そのとおり」 

「けどよ、ヨシムネくんが意外に強くて本当に助けちまったらどうするんでぇ?」 

「その点は大丈夫だよ、キンさん。ヨシムネくんって、マジ弱いから」 

  





「お銀ちゃーん」 

 ヨシムネはお銀に向かって走った。 

 と、その前に立ち塞がる数人の黒装束の男たち。 

「なんだ?おまえら!」 

「我らは徳川に恨みを持つ者。故あって貴公のお命頂戴いたす」 

 黒装束の男たちは一斉に刀を抜いた。 

 三人は草むらからその様子を伺っていた。 

「すごいリアルだ。さすがヘイゾーの仲間だね」 

「そうだな・・・けどあんなに人数用意したかな?」 

「あ!切りかかった!」 

 黒装束の男が刀を振りかざしヨシムネくんに襲い掛かった。 

「ひ〜っ!」 

 なんとかかわしたものお袖が切り裂かれた。 

「助けて〜っ!」 

 ヨシムネくんは刀を振り回す黒装束の男たちから必死で逃げ回った。 

「かっこ悪いな・・・なんで、あんなのが俺らの頭なんだろ?」 

「遅れてすんませ〜ん」 

 背後から数人の男たちが現れた。ヘイゾーの子分たちだ。 

「あれ?おめえたち・・・なんで?」 

「昨日、飲み過ぎちゃって・・・もう、はじめちゃったんですか?」 

「じゃあ、今、ヨシムネくんを追いかけているのは・・・」 

 四人は逃げまわるヨシムネくんを見た。 

「殺される〜っ!」 





 ヨシムネくんに襲い掛かるのは打ち合わせどおりだったがそれにしてもリアルだ。 

 これって、本当に台本どおり? 

 お銀はだんだん、不審に思えてきた。 

「邪魔だ!」 

 一味の一人がお銀に向かって切りかかった。 

「あぶない!お銀ちゃん!」ヨシムネくんが叫んだ! 

 お銀は刺客の刀を避けようとして足を滑らした。 

 確かにお銀に切りかかるのは打ち合わせのとおりだったが相手は本気モードだ。だが訓練さ
れた忍びであるお銀 
はそれでも難なくかわした。その後は、予定どおりに崖から落ちるだけだ。下では仲間がお銀
を受け止めるために待 
ち構えている。 

だが、予定外のことがおきた。 

 崖から落ちたお銀は、その手をしっかり掴まれた。 

 お銀の手を掴んだのはヨシムネだった! 

 下でお銀を受け止めようと待機していた伊賀忍者たちが上を見上げた。 

「だ、大丈夫か・・・お銀ちゃん」 

「ヨシムネ様・・・」 

「しっかりしろ、今、引き上げるからな」 

 ヨシムネはお銀を引き上げようと顔を真っ赤にして引っ張った。 

 完璧に無防備な状態だ。そこを狙って刺客が刀で切りかかった。 

「危ない!」お銀が叫んだ。 

 その刺客の手に手裏剣が突き刺さった。刺客はうめき声を上げ刀を落とした。 

「そこまででござる!」 

 ハットリくんが刺客たちの真ん中に現れた。 

「あちゃちゃちゃちゃちゃああぁ!」 

 めためたに刀を振り回すハットリくん。刺客たちは逃げ惑った。 

 驚く刺客たち。その背後からヘイゾーが現れ十手で思い切り頭に打ちつけた。 

「ハセガワヘイゾーである。神妙にお縄につけ!」 

 ヘイゾーは十手で次々と刺客たちに当て身を食らわせ、気絶させていった。 

「つ、強い!ここは引き上げだ」 

 逃げようとする刺客たちの前に遠山のキンちゃんが立ち塞がった。 

「おめえたちの悪さ、おてんとうさまは見逃してもこの桜吹雪は許しゃしないぜ!」 

 濡れ手ぬぐいを振り回し、残りの刺客の顔に思いっきり当てた。そんなに威力はなさげだが
キンさんがやると超強 
力な武器になる。刺客たちは顔を押さえてうずくまった。 

 次々と倒される刺客たち。刺客たちの首領は、その様子を歯ぎしりしながら見つめていた。
  

「くっそ〜、計画が台無しだ。こうなれば、せめて、一太刀!」 

 刺客の首領はお銀を引き上げたばかりのヨシムネくんに突っ込んだ。 

「危ない!」 

 お銀は隠し持った小太刀を抜くと飛び上がって空中で一回転してとヨシムネくんの前に立ち
塞がった。 

「お銀ちゃん・・・?」 

 お銀は首領の刀を弾き飛ばした。 

「殿、早くお逃げを!」 

「おのれ〜っ!」 

「スキありぃ!」 

 その時、タダスケは、首領の頭を思いっきりミネ打ちした。 

 そのままうつ伏せに倒れる首領。 

「だ、大丈夫?ヨシムネくん」 

「タダ、助かったよ。それにしても一体、どーゆうこと?」 



 あたりは刺客たちとヨシムネの仲間たちの大乱戦になっていた。 

 さらに駆けつけたヘイゾーの子分と崖下に隠れていた伊賀忍軍たちが加わってさらに大混戦
になった。しかし、数 
分もすると人数で勝るチームヨシムネが刺客たちを完全に沈黙させた。 





 数刻後・・・ 

 刺客たちは皆、紐で縛られ転がされた。 

「まったく、ふてえ連中だぜ」 

 ヘイゾーが手を払いながら言った。 





「そうだったのか・・・男だったのか」 

 ハットリくんから事情を聞いたヨシムネくんはがっくりと肩を落とした。 

「はい、まぎらわしいことをして申し訳ありません」 

 お銀は頭を下げた。 

「いや、勝手に思い込んだのは俺の間違いだし、そなたたちは俺を守るためにやっていたこと
だ。あやまることはな 
い」 

「殿・・・」 

 お銀の目が潤んだ。 

「それにしても美しいな。とても男とは思えん」 

「え?」 

 お銀は、頬を赤く染めてうつむいた。 

「ちょっと、ハットリくん、菊の介さんの目が違いますよ・・・」 

「うむ、惚れたな・・・」 

「はい?え?なんで?」 

 ヨシムネくんはそんな事とは露知らず、扇子を取り出してあおいだ。 

「これにて一件落着だ!」 

「ヨシムネくん、それって俺のせりふですよ」 

 タダスケが口をとがらせた。 

「はははは、いいってことよ!」 



 世は天下泰平・・・ある春の日の出来事だった。 



おわり 


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