1、破幻の迷い子
五稿目

 20××年
 日本は異世界の介入により混乱の時代を迎えた……
 人々はその異世界を"魔界"と呼び、伝説の魔物の姿をした侵入者たちを人々は"妖魔"と呼んだ。
 妖魔には2つの勢力が存在し人間の存在は関係なくその争いは続けられていた。
 だが、この混沌とした世界に突如、第3の勢力が現われた……。
 





 静岡上空……
 2機のF−2戦闘機が作戦を終え、基地に帰還しようとしていた。彼らは妖魔の侵食が激しい地区に攻撃をしたとこ
ろだ。大都市に出現した魔界の領域は大きく、住民の生存が絶望的になった地区や避難が不可能と判断した地区
に連日、空爆を行なっていた。
 視界に何かを捉えたパイロットは寮機に通信をいれた。
「11時の方向だ。何か見えないか?」
 寮機からの連絡を受けたパイロットの視界に入ったのは巨大な黒い竜巻だった。
「ちっ、"スイーパー"だ……」
 この巨大な竜巻は、なぜか魔界の力の強い地帯ぼど頻繁に出現していた。ビルを崩壊させ天空まで届くこの現象
は人間の生活区域をことごとく破壊していった。やがて破壊を繰り返していくこの黒い竜巻は"スイーパー"と称され
忌み嫌われるようになった。
「巻き込まれたら危険だ。仕方がない。燃料を喰うが雲の上に出よう」
 二機のF-2は上昇してその場を離れていった。

 あれが出るようじゃここもいずれここも攻撃対象になる……

 パイロットは操縦桿を上げていった。





 照準スコープの中に一羽の鳩が入り込んでいた。
 かつての平和の象徴も今では重要なタンパク源だ。有理は照準スコープに獲物を捉えた。
 「いただき……」
 鳩が動きを止めた。絶好の機会とみた有理は引き金に指をかけた。が、その時だった。獲物の鳩はいきなり飛び立
っていった。
「あっ!」
 鳩は何かに驚いたらしい。有理は舌打ちした。タイミングは文句なしだった。"何か"が鳩を脅かしさえしなければ今
日の夕食は鶏肉に決まっていたことだろう。
「なんだよ……誰が邪魔したっての?」
 有理はひとり呟いた。
 彼女の本来の仕事は鳩を狩る仕事ではない。
 彼女の狩るべきものは異界からの侵入者"妖魔"だ。
 人とは違う彼らは人間には大きな脅威だ。そんな妖魔を専門に狩る集団を"ストライカーズ"と呼んだ。
 
 スコープ越しに周囲を見渡し、狩りを邪魔した"何か"を探した。すると瓦礫の中から何かが動いているのが見える。
 いた……。
 これだ。鳩はこれに驚いたのだ。有理はうごめく影に目を凝らした。

 人? 人なの?

 それは小さな女の子だ。
 有理はため息をついた。

 まったく……晩飯を逃がしてくれて

 次の瞬間、有理はもうひとつの動く影に気がついた。
 女の子の背後に忍び寄るのは魔獣だった。山猫の様なそいつは背を低くしながら近づいていた。少女はそれにまっ
たく気がついていなかった。

 おいおい……

 有理は再びため息をついた。
「しかたがねえな……」
 人差し指がライフルの引き金にかかった。

 少女に狙いを定めた魔獣は今にも飛び掛りそうだ。
 影が少女の身体を覆った時、彼女はようやく背後の存在に気がついた。
 少女がゆっくりと振り向いた時、魔獣は牙をむいた。
 だが、その瞬間、魔獣は頭から血を噴出して倒れた! 額に空いた穴からは血が流れ落ちていた。
 横たわる魔獣を少女は不思議そうに見つめていた。



「おい、大丈夫かよ」
 有理は瓦礫に駆けつけ少女に声をかけた。少女は振り向くと初対面の有理に、にっこりと微笑んだ。
「笑ってる場合かよ。お前、詩にかけたんだぞ。こんなところで何してるんだよ?」
「はぐれた……」
「はぐれたぁ? 親とか?」
 少女はしばらく考え込んだ後、黙って頷いた。
「つぅーか、ちゃんと喋れよコラ」
 有理はその子を睨みつけたが少女は意味を理解していなのか笑っているだけだった。
 有理は首を横に振ってため息をついた。
「晩飯は逃すは、変なガキ拾うわ……」
 有理は倒れている魔獣を足でつついてみた。何も反応は無い。間違いなく息が止まっている。
「晩飯ゲット…と、言いたいけど、こいつは食えねよなぁ」
 有理はかがんで横たわる魔獣をみた。
「ヘルキャットか……。こんなとこにいる奴じゃないのに。この辺も妖気が濃くなってきたってこなのか……」
 有理は立ち上がると少女の方を見た。
「こんなところに一人でいるのはやばいんだぜ。わかってるの? こんなのがいつまた襲ってくるかもしれないんだぞ」
 少女は意味がわからないのかきょとんとした顔をしいた。
「しかたがねーな……一緒に来るか?」
 これは理解したようだった。少女は嬉しそうに笑うと有理に駆け寄った。
「……もしかして、やっかいなもんしょうこんじまったかなぁ…」
 有理は、また、ため息をついた。




 黒雲が渦巻き始めた。
 決して天気のいい場所ではなかったがこの雲は異常だった。
 瓦礫の山をどこからか現われた馬に乗った騎士たちが登っていた。灰色の甲冑に黒いマントを羽織ったその姿はま
るで幽界から抜け出した亡霊だった。馬は不安定な瓦礫を難なく登っていく。まるで重力を感じないかのような軽や
かな足取りだった。彼らはこの世界では"普通"ではない。人が魔界と呼ぶ世界の戦士たちだ。

「いました、ヘルキャットです」
 騎士の一人が魔界の生物の死体を指差した。
「死んでますな……どうやら人間の武器でやられたらしい」
 騎士の一人が馬から降りて死んだヘルキャットを調べた。
「これはただの弾じゃないです。"聖なる祈り"を捧げられた弾丸。"聖弾"です」
 騎士は馬上の指揮官にその弾丸を放り投げた。指揮官はそれを掴むと苛立たしげに握りつぶした。拳の中から青
白い煙が上がった。
「小癪な人間め……」
 この者の怒りがそうさせるのか、甲冑の中の赤い瞳が妖しく光っていた……





 有理は人々が集まっている街に戻った。
 崩壊した都市にも細々と街が出来ていた。ここもそのひとつだ。自衛隊へ米軍の支援も受けられない彼らは武装し
自らの生活圏を守っていた。
 見張りの若い男が戻ってきた有理を見つけて声をかけた。
「ゆーり! なんだ? その子。もしかして食うのか!」
「ばーか! 余計なこといってないでちゃんと妖魔を見張ってろ!」
 有理は子供の手を引いて先を急いだ。
 その通り道には賑やかな市場があった。品物の取引がされていた。その中を早足で進む有理に少女は必死につい
て行った。
「おっ? 有理、おかえり。今日の獲物は?」
 有理を見つけた顔見知りの男が声をかけてきた。有理と同じくストライカーの若者だ。有理に気があるらしく何かと
有理にからんでくる。でも有理にはその気は全くなかった。
「今日は無し! 貴重な缶詰に手をつけるわ。そっちはどーよ?」
「こっちはカラスが4羽。悪くねえ。なんだったら分けてやろうか」
 有理は眉をしかめた。
「あんたが、"ただ"なんかでくれるなんてありえないよね……」
「まあね、そのかわりデートしてくれよ、デート」
「は? なんであんたと?」
「おれたちお似合いじゃね?」
「じゃあ、いいわ……今回は貯め込んだ缶詰にしとく」
「な、なんだよ! いいじゃねーか……ん?」
 若者は有理の後ろにいた少女に気がついた。
「何? それ」
「あっ…これは……」
「もしかして食うの?」
「誰が食うか!」
「はっ! もしや有理の子隠し子……?」
 言葉が終わる前に有理の鉄拳が顔面にヒットした。




 にぎやかな市場を抜け、厄介な知り合いからも離れ、有理はようやく自分の住処にたどり着くことができた。。
「ついたぜ、入れよ」
 有理は少女を家の中に入れた。
「ところでお前の名前、聞いてなかったな? なんていうんだよ」
「レーヴァ……」
「れいば? 変な名前だな。まっ人のことはいえねーけどな。おい、そこらへんに適当に座ってろよ。おっ? 何持って
んだ? お前」
 有理はレーヴァの手に持った紙切れに気がついた。
「貸せよ」
 有理はその紙切れを取ろうと手を伸ばした。レーヴァは何かに怯えたように身を縮めた。
「な、なんだよ。そうビビんなくてもいいじゃないか」
 さっきまで屈託のない子供だとばかり思っていたがこの怯え方は普通じゃない。
 何かあったのかな……
 有理は手を引っ込めると優しく笑いかけた。
「じゃあいいよ。好きにしろって」
 誰にでも触れられたくないモノがあるものだ。
 有理は抱えていた荷物を部屋の隅に降ろすとストックの缶詰を探した。
 足元にいつのまにかレーヴァが来ているのに気がついた。
「ん? 何んだよ」
 少女は黙って紙を掴んだ左手を差し出した。
「いいのか? お前の大事なもんじゃねーの?」
 レーヴァは笑いながら首を振った。
 有理は紙切れを受け取ると広げて見た。
「……なんだ? これ」
 紙に書いてあるのは見たこともない文字だった。目一杯書き連ねられた文字を察するに手紙のようだが読めない文
字では内容も理解できるわけもない。
「んん……わかんねーや。お前、ガイジンか?」
 有理は頭を掻きながらレーヴァを見た。

 その時、銃声が鳴った!
 一発ではない。いくつもの銃声だ。自動小銃の音も聞こえる。
 有理は反射的に腰につけたホルスターのハンドガンを掴んだ。
「ここで大人しく待ってろよ」
 有理はレーヴァにそう言うと状況を確認するために外に飛び出した。
「なんだ?」
 有理が目にしたのは5階建てのビルをも越す巨大な怪物だった。姿は人のようにも爬虫類にも見える。
 怪物は廃墟の一部を叩き壊した。コンクリートが地面に崩れ落ち粉塵が高く舞う。その後、周囲を見渡すと怪物は
呆然と自分を見上げる有理に気がついた。
「うっ…うっそ!」
 怪物は廃屋を叩き潰しながら有理に向かっていった。


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