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三稿目
「うっ、イミールじゃねーか……」
巨人型の怪物で爬虫類人間といったほうがいい生き物だ。学者の話によると脳は3箇所に分散しているらしい。
鈍感でしぶとい魔界の生き物。しかも凶暴だ。
有理は家に入ってレーヴァを引っ張り出した。
「あっ……」
一旦、家から出た有理だったが再びレーヴァを連れて家に戻った。中に入ると、ありったけの武器を抱えて、またレ
ーヴァを引っ張って外に出た。
「いくぞ!」
イミールは直前まで迫っておりその恐ろし牙をむき出しにして持っていたこん棒を振り降ろした。
「危ない!」
その場を逃げ出す有理の後ろで家が叩き潰された。粉塵がものすごい勢いで吹き上がる。
「くそっ! でかぶつ野郎が!」
有理はハンドガンを構えて巨人イミールに向けたがどうみても9ミリ程度の弾丸が歯が立つ相手でもなさそうだ。
イミールの巨大な手が捕まえようと有理に迫る。
ハンドガンがバックスライドした。弾切れだ。
「ちっ!」
傍らに置いた日本刀を掴むと抜刀して巨人の指を切り落とした! 有理の足元に人の腕ほどもある"中指"が落ち
てうごめいている。巨人イミールは痛みで手を引っ込めた。
「ストライカーをなめんじゃねぇー!」
有理は刀を収めると持ち出したRPG7(対戦車ロケット)を構えた。
イミールは怒りの形相で有理を睨みつけた。
「地獄に戻りな! ビッグフット!」
有理はRPGの引き金を引いた。白い煙を噴き上げながら30センチほどのロケットがイミールめがけて突き進んだ。
イミールは突っ込んでくるロケットを物珍しそうに見つめていたがそいつはイミールの顔面に突っ込むと爆発を起こし
た。
煙と血と肉片があたりに飛び散った。首を根元から血を噴出しながら倒れる。低い衝突音が辺りに響いた。
その光景をレーヴァは不思議そうに見つめていた。
「おっと、ばっちいぞ」
降り注ぐ血がかからぬように有理はレーヴァの頭から上着をかぶせた。
「有理、無事か!?」
有理たちの周りに武器を抱えた男達が集まってきた。
彼らは"ストライカーズ"。魔界からの侵入者"妖魔"を狩ることを生業としている。
「なんだぁ? てめえら今頃!」
「へへ、だって有理ならなんとかやっつけちまうだろうと思ってよ」
「はあ? それで手出さなかったってえのかよ!」
仲間のストライカーズ皆、ニヤニヤ笑っていた。
「この、くそどもが! それでハンターかよ! さっさと失せろ!」
有理はハンドガンを抜くと空に向かって数発撃った。ハンターたちは雲の子を散らすようにいなくなった。
「まったく、ストライカーってのはクソの集まりだな…」
有理は横で笑いながら自分を見上げるレーヴァに気がついた。
「やれやれ……」
有理はレーヴァの頭をそっと撫でた。
"ストライカーズ"が発生したのは魔界が現れ今の混沌とした世界になった時、しばらく経ってからだ。
最初、自衛のために武器を使う連中のことを全般にそう呼んでいた。
次第に、特に銃器の扱いに慣れ進んで妖魔と対決する者を指すようになった。彼らは自衛隊や警察の力が及ばな
い地区の自警団的な存在となり組織化していった。
この街もそんな"ストライカーズ"の拠点のひとつだった。
そして今、街にある"ストライカーズ"の支部では報告会が行なわれていた。
「西地区で魔獣を14頭仕留めました」
"ストライカーズ"の支部長 南波は葉巻を吹かして報告を聞いていた。
「結構、俺は北地区で仕留めたのはたったの3頭だった。よくやった」
西地区の隊長 明智は謙遜しながら肩をすくめた。
「……といってもヘルキャットばかりでした。小物です」
「自慢していい。ところで俺の留守の間、巨人イミールがここを襲ったそうだな。大そうな大物だ」
「妖魔の気配はありませんでした。調べなおしましたが結界に異状はありませんでした。どうやってここに侵入したの
か……」
「なんにしろ我々が見落としている所があるはずだ。もう一度、調べなおせ」
「わかりました」
「ところでイミールを一人で撃退した者がいるそうだな」
「はい、矢追有理です」
「有理だと? あいつか……ふふふ、あいつ、また図に乗りそうだな」
南波は葉巻を吹かしながら嬉しそうに笑った。
「あの女は生意気です」
「まあまあ、若いもんにはありがちなことだ」
「支部長は有理にあまいですよ。"組合"のいう事は聞かないし強調せいはないし……この間なんか…その……」
西地区の隊長は言葉をつまらせた。
「あ? なんだ?」
「私の事を…オカマ野郎と…」
西地区隊長の明智の顔立ちは荒っぽい者が多いストライカーズにおいては多少"女性的"だ。これは本人も気にし
てる事であり有理は痛烈にそこを突いたのだ。
「いつか"ぎゃふん"と言わせてやる」
「"ぎゃふん"……か?」
「そうです! "ぎゃふん"です!」
明智は力強くそう言った。
そんな事を言う奴を見た事はない……
南波はそう思っていた。
家を壊され、貯め込んだ食料も失った有理は、街に夕食をとりにきていた。しかし、すんなり食事はとれはしなかっ
た。なぜなら店主と有理の間には少し問題があるからだ……
「だから何で飯食わせねえんだよ!」
有理は怒って店主の胸倉をつかんだ。
「だって、おまえ、金ないじゃん」
「それはイミールに家を潰されたからだ!」
「それは、俺とは関係ないもんね。飯が食いたかったら金払いな」
「代わりにこいつをくれてやる」
有理はグロックを抜くと店主の顔に突きつけた。
「じゃあ、こっちもこいつをおごってやるぜ!」
店主はショットガンを有理に向けていた。
「たらふく食いな!」
「こっちも釣りはいらねえーぜ!」
銃を向け合う二人に店の中が騒然としていた。といっても二人が争うのはいつものことだったが。
そんな中、二人の間に割って入った者がいた。長髪の美人だ。
「二人とももう、やめなさい。食事がまずくなるわ」
「姐さん、今日という今日は止めないでください。もう我慢ならねえ」
「そうだ! 五月さん。俺もこのハゲとの決着をつけなきゃなんねえ」
「毛はあるんだよ! まだ!」
「有理もロクさんもいい加減にしなさい!」
五月は涙ぐんだ。
「あっ……その、そんなつもりじゃ…」
涙ぐむ五月にロクはおろおろしだした。
「ちっ……こっちもここまでするつもりじゃなかったしよ。ただ言い方がむかついたからよ…その…悪かったよ」
「じゃあ、喧嘩はやめてね」
「ああ、五月さんの顔たてるよ」
有理はグロック17をホルスターに収めた。
「姐さんがそういうなら……」
ロクもショットガンを降ろした。
「命拾いしたな。色黒ヤロー」
「俺は、もとサーファーなんだよ! 青髪が!」
「これは染めてんだ!」
「日本人は黒髪だろーが!」
「毛のねーやつに言われたかねーよ!」
「だから毛はあるんだよ! まだ!」
「もーっ! いいかげんにして!」
「「ごめんなさい」」
キレた五月にふたりは思わず頭を下げた。
夜の闇の中、騒がしい酒場を見つめる集団があった。
「あそこです……」
「ようやく追いついたか」
「途中、イミールが死んでいました」
「今度はイミールか……人間のくせにやるな」
「いかがしましょう? マスター・ウォン」
「この闇の刻は我らにとっては好条件でもある。やつらが気づく前に取り囲め。”レーヴァテイン”を一気に奪取するの
だ」
騎士たちは全員、一斉に剣を抜いた。
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