2、闇の審問会



 ハンチングキャップをかぶった若い男がふらりと現われたのは昼も近くなるころだった。
 腰にも背中にも手にも武器は持っていない。アロハシャツにジーパンというラフな格好。ストライカーズの集まるその
場所ではそれはかなり不自然な格好だった。
「ちょっといいかな?」
 ハンチングキャップの男は立ち話をしていたストライカーズに声をかけた。
「ストライカーズの本部ってここでいいのかな?」
 男は目の前の建物を指差して笑顔で問いかけた。
「ああ、そうだけど」
「ありがとう」
 礼を言い立ち去ろうとした若い男の耳にカードに興じる男達の声が入った。男は興味を惹かれたのか階段を登るの
を止めて近づいていった。
「ねえ、ねえ、おにーさんたち」
「なんだよ。まだ何か用か?」
「それ混ぜてくれない?」
 若い男は笑顔でカードを指差した。





 廃墟の中を一台の軽バンが走っていた。
「もっとスピードでねーの?」
 後部座席の有理は呆れ顔でそう言った。
「うるせえ、誰か重い奴がいるからでねえんだよ」
「それは五月姐さんの事か?」
「ば、ばかいうな! お前のことだよ!」
 顔を真っ赤にして怒るロックにさらに悪態をつく有理。小さな軽バンの中は大騒ぎだ。
 「にぎやかでいいわね」助手席の五月はにこやかにそう呟いた。

 ようやくストライカー本部に着いたのは昼過ぎだった。M60重機関銃を備え付けた見張り台から近づくものを警戒し
ていた。厳重な門を通り敷地に入ると中は恐ろしく広い。しかし通れる道は一本のみ。後は無数の地雷原だ。
「ああ、着いちまったなぁ…」
「有理さん、何で本部が嫌いなの? ストライカーなのに」
「ここは陰気臭いんだよね。なんかヤダ」
「そう? 私たちの住んでる場所よりきれいじゃない?」
「外見じゃないんだよ、姐さん。中がねぇ……」
「文句言ってねえでさっさと降りろ! まったく男のくせにぐだぐだと……」
「お、おれは女だ!」

 口げんかしながら軽バンから降りた有理たちは建物に向った。建物は元県庁だった場所だ。広い部屋選びには苦
労しない。ホテルを本拠とするよりも武器を置いとけるこの建物の方が重宝がられていた。
 入り口の階段ではストライカーらしき連中がカード遊びに興じていた。
 その横を通り過ぎる有理たちにカードを楽しむ男達の中の一人が気がついた。
「おっと、時間だ。そろそろいかないと」
「なんだよ! まだいいじゃねーか。負けたままでいられるかよ」
「そうだ。盛り上がってきたのに。まだやろうぜ。こんどはいい手がきたんだ」
「人が待ってるんでね。悪いけど」
 ハンチングキャップの男はカードを表にして置くと階段を駆け上がっていった。
 カードはスペードの4カードだった。



 目的の場所は13階にあった。
 そこはストライカーズ本部でありながら別の領域だった。
 "闇の審問室"の主は妖魔や魔界の知識を大量に持っていて、ストライカーズたちの助言者的立場だった。しかし、
あまりに詳しい知識の為、"闇の審問室"の主はウィッチとも妖魔とも噂されていた。
 入り口には2人の重武装の兵士が立ち、厳重な警備をしている。グレネードランチャー付きのアサルトライフルにア
ーマーベストと海兵隊並みの装備だった。
「審問官に会いにきたのですが」
 五月は慣れた様子で武装兵士にそう言った。兵士は肩の無線機のスイッチを入れた。
「五月様がおいでになられてますが……はい、わかりました」
 兵士は何か指示を受けた後、五月の前に来た。
「五月さん、来たことこの階に来た事あるの? ストライカーでもないのに……」
「まあ用事があって何回かね」
 驚く有理をよそにそう言った五月はにっこり微笑んだ。
「許可が下りました。どうぞ。五月様、お入りください」
 武装兵が扉にかけられてた南京錠の鍵をはずした。
「……これって閉じ込められてんじゃね?」
「だな…」
 これにはロックも同意した。
 鎖が外され重い扉が開かれた。
 暗闇の中に蝋燭が一斉に照らされ道を作る。
 奥に歩いていくと玉座らしき場所に黒い法衣をまとい覆面をした男が座っていた。
「何のようかな? 五月……」
「お久しぶりです。"闇の審問官"様。ちょっとお聞きしたいことがあって……あっこれお土産の草団子」
 五月は持ってきた包みを渡した。
「心遣いすまぬ」
「いえいえ、ところで今日来たのはこの子の事なんです」
 五月はレーヴァを前に出した。
「…その子は」
「魔界の者が追って来ました。厳重に結界を貼ったエリアを突破してまで……その理由を知りたいのです」
「うむ……」
 審問官はレーヴァを見つめた。怯えたレーヴァは有理の後ろに隠れた。
「大丈夫だって。おれがついてる」
 レーヴァは有理の上着の裾をきつく握り締めた。
「それとこれがこの子の持っていた手紙です」
 五月は手紙を審問官に手渡した。
「……これはルーン文字だな」
「やっぱり……」
「これは親書だ。妖魔の勢力が別の勢力に向けたものだ」
「妖魔の? で、内容は?」
「……どうやらその子を友好の為に贈るという内容らしい」
「レーヴァを? ふざけてやがる」
「生け贄ですか?」
「違うな。その子は敵意がないという証なのだ」
「なぜリーヴァが敵意のない証になるのでしょう?」
「昔の武将は主君に人質を差し出して忠誠心を示したっていいますぜ。五月さん」
 ロックは五月の横に立つとそう言った。
「少し違うな。そいつの正体は……」
 有理が口をはさんだ。
「五月さん! もう行こうぜ。内容はわかった。要するにレーヴァは行きたくもねえとこに送られようとしてたんだ。"物"
みたいにな! そんな事はさせねえ」
「有理さん、レーヴァちゃんは魔界の者かもしれないのよ」
「関係ねえ! こいつはオレを頼ってんだ! 後は俺がレーヴァを守ってやる。さあ、行こうぜレーヴァ」
「おい、有理。待てよ」

 ロックが有理を呼び止めたその時だった。閉められていた扉が開き始めた。外の光が流れ込んでくる。
「ちょっと、あんたたち、勝手な事を言わないでくれよ。まったく……」
 扉の前にいつの間にか誰かが立っていた。
「…なんだてめえ」
 有理はハンドガンのグリップに手をかけた。
「その子の持主だよ。それは俺達が友好を結ぶための大事なものなんだ。親書はまた書けばいいとしてレーヴァテイ
ンはもってかれちゃ困る。ああ、騎士団(ナイツ)どもから守ってくれたのは感謝するけどね」
「その者、人にあらず!」闇の審問官が叫んだ。
「妖魔か……てめえ」
 ハンチングキャップを被った男はメガネの位置を直した。
「妖魔でもイントルーダーでもなんでもいいよ。それより早くそいつを返してよ」
 有理は素早くグロックを抜くと容赦なく引き金を引いた。狙いは男の眉間だ。しかしハンチングキャップの男は弾丸
を右手で受け止めた。銃弾を握った手から白い煙が上がる。
「聖弾か……やっかいなものを持ってるね、君」
 男は握った聖弾を握りつぶした。


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2、闇の審問会A
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