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「お前、ただの妖魔じゃねーな」
「まあね。そういう君も他のストライカーとは違うようだな」
「他より"上物"だぜ」
「とはいえ所詮は人間。俺に敵うわきゃないだろ」
「やってみるか?」
有理は背中の日本刀を引き抜いた。
「うーん、いい刀だね。名工の作とみた」
「"虎徹"だ。そこらの刀と一緒にするなよ」
有理は刀を振り上げてハンチングキャップの男のところまで跳んだ。男は有理の一振りを間一髪でかわした。
「おーっ、やるねー」
続けて刀を振り上げるが男は全てをかわした。
後ろではロックと五月が見守っている。
「有理の攻撃が全てかわされている……こういうのもなんだが有理の刀さばきは並じゃありません。それをかわして
いる相手は只者じゃありませんね」
心配げな表情の五月の横でロクは冷静に分析した。
「有理さん……」
ようやく一刀が男の鼻先をかすめた。鼻の頭から血が流れる。
「あっ……痛いなぁ」
大振りが続いた有理は肩で息を切りはじめていた。
「へっ! 顔つきが変わったな、おい」
挑発する有理だったがハンチングキャップの若者は未だ余裕有り気にニヤついている。
「君らの武器はそのくらいだろ? でもそいつが通用しなかったら後はどうする気なんだい?」
「なんとかならぁーっ!」
有理は"虎徹"を抜くと若者に切りかかった!
若者は紙一重で刀の一振りを避けるとその場から飛んだ。
「おっと、そいつはよく切れそうだね」
鼻先の傷口から流れる血を舐めた。
「そいつには刀工の念がたっぷり練りこんであるな。それはヤバいよ」
「そうかよ! なら、おめえで試してやる!」
「おお怖っ。とりあえずレーヴァテインはお前に預けておこうか。その方が安全かもしれないしね。でも時がきたら必ず
迎えにくるよ。それまで"それ"を守っていてね……あいつらからも」
「あいつらだと?」
ハンチングキャップの若者は天井に這い上がった。
「僕の名はロキ! いずれ迎えにくる」
そう言ってロキと名乗る若者は天井を突き破って姿を消した。
「なんなんだ? あの野郎」
有理は刀を鞘に納めた。
部屋の外にいた武装兵は倒れている。その服の中身は干からびてミイラ状態だ。恐らくロキと名乗る若者の仕業に
違いなかった。
「なあ、闇の審問官さんよ。あんたはあいつの事も知っているんじゃないか?」
「有理さん?」五月は小首をかしげて有理を見た。
「気がついてたかい? 五月さん。あいつのかけていたペンダントの文様…その手紙と同じだった。それとそいつとも
ね」
有理は鞘に納まった刀で審問官の指輪を指した。
指輪の文様は同じものだった。
「そこんとこどーよ? 審問官さんよ」
審問官はしばらくの沈黙の後、語りだした。
「……別に秘密でもなでもないから教えてやる。生意気なストライカーよ。これは"アシール"の紋章だ。これを掲げて
いる者は"アシール"の勢力に属するという証」
「なんだよ? そのアシールってのは。あんたもそのアシールか?」
「お前たちが妖魔と呼んでいる者どもの一部。"アシール"は"ヴァニール"というもうひとつの勢力と敵対している」
「……察するに俺の店をぶっ壊したのはヴァニールって連中だな」
ロクは腕組みしながら呟いた。
「"アシール"と"ヴァニール"の争いは数千年にも及ぶが未だに決着はついていない。この地上の混乱は全てはこの
"アシール"と"ヴァニール"の争いの結果でしかない。理解している者は少ないが」
「するとなにかい? おれたちは…」
「有理! 女の子は"私"だ。または"あたし"」
「うるせえな…私たちはあんたらの喧嘩のとばっちりをうけているってことなのかよ」
「言っておくが私は"アシール"ではない。紋章は資料として飾ってあるだけだ」
審問官は椅子のスイッチを押した。すると壁が動き出した。シャッターのような構造になっていたようだ。壁が上がる
とそこにはあらゆる紋章や剣、その他の骨董品がずらりと飾られていた。
「そしてこれは気に入ったからしてる」
審問官は指輪を外すと有理に放り投げた。
「欲しければやる。コレクションはまだある」
「いるか! そんなもん」
「有理、審問官の持ち物だったものだ。欲しがる奴はいくらでもいる。きっと金になるぞ」
「え? 本当」
有理は転がっていた指輪を拾った。
「こんなもんがねえ……」
有理は審問官の指輪をまじまじと見た。銀色の表面の模様はかなり細かく細工されている。
銀メッキじゃねえのかなぁ……
有理は思った。
「いろいろありがとうございます。審問官さま。私たちはそろそろ失礼いたします」
そう言うと五月は頭を下げた。
「うむ、こちらこそ草団子。ありがとう。ところで五月…」
審問官は手招きした。
五月は審問官の傍らに近寄ると耳を近づけた。
「騒がしい連中だな」
「すみません。なにぶん元気すぎて」
「よい。私も面白かった。さっき、あの娘に渡した指輪はきっと役に立つ。手放さないようにしておけ。それから……」
審問官の声が低くなった。
親密に話す審問官と五月の様子を見ていたロクは怪訝そうな顔をそていた。
「なんだよ…五月さんとばかに親しげじゃないか……」
「ニヒヒ、ロク。おめえ、妬いてるのかよ」
「な、なにを言ってる! 俺は、ただ……」
「いいさ。おまえが誰を気にしようが知ったこっちゃねーよ。けど、おまえ、五月の姐さんが審問官と知り合いだって知
ってたのか?」
「むぅ……残念ながら今日はじめて知った。無くなった旦那は優秀なストライカーだった。その関係じゃないか? 俺も
ここに来たのは他のストライカーの付き添いで来たことが1回あっただけで審問官ことは噂程度しか情報はもっていな い」
「そうか……おれ…いや、あたしはどうもあの審問官って奴が信用できないんだよなぁ」
「…それは俺もだ。めずらしく意見が合ったな」
「ロクの場合は嫉妬だろ?」
「まだ言うか!」
ロクは有理を捕まえようとした。しかし身軽な有理はロクの腕を簡単にすり抜けた。
「なに仲良く遊んでるの。さあ、さあ、行きますよ」
五月が手を叩きながら言った。
「な、なかよくなんかないです。五月さん」
「そうだよ。だれがこんなキングコングと……」
「俺もこんなオカマなんかと」
「俺は男じゃねえ!」
「女の子は"私"だ」
五月は言い合いする二人が仲の良い兄弟に見えていた。実際、二人は似たところが多い。
そんな事を思いながら五月の頭にはもうひとつの事が渦巻いていた。
それは審問官の忠告の言葉……
「レーヴァは"武器"だ。扱いに気をつけないと危険な代物」
武器? レーヴァが?
五月は有理とロクの口げんかを楽しそうに見ているレーヴァを見つめた。
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