「最近、五月さん元気なくね?」
 カウンターのロクに有理が声をかけた。
「むう……ちょっとあってな」
「何?何? なんか知ってんの?」
「少し前にな、鉄夫さんの手紙を見つけてな。それから少しブルーでな」
「鉄夫さんって……五月さんの旦那さんの?」
「ああ、俺の命の恩人でもあった御人だ」
「そっか……」
「いつもは一人の食事は寂しいからってここに夕食をとりにくるのに……最近、回数も減ってる。きっと今日もこねえ
な」
「そうなんだぁ……ハマッちゃってんだなぁ五月さん……そうだ! お前、逆に夕食届けてやればいいじゃん」
「え?」
「ハマってたら誰かが引っぱり上げてやんなきゃよ。な、行ってやれよ」
「し、しかし、俺には店があるし……それにそんな差し出がましいこと…ぼくがですね……」
「何、言葉遣い変えてんだよ。いいんだよ、こーゆーのは。きっと喜ぶぜ」
「そ、そうだな……あっ!でも店が……」
「店の方は、あたしに任しておけよ。まえからこーゆーのやってみたかったし」
「わ、わかった! 仕度をする」
 ロクはお弁当の準備を始めた。気合の入れようはすごく他の客からのオーダーを全部無視してそれに没頭した。
「よし!」
 重箱におかずとご飯を詰め終わると風呂敷でそれを包んだ。
「おう、いいじゃねーか。後は任せろ! ほら行って来い」
「わ、わかった。頼む! 有理」
「おうよ!」
 と……店から出て行こうとしてロクは立ち止まった。
「……ところでおまえ、料理できんの?」
「いや」きっぱりと言う有理。
「かわき物くらいは…」
「全然」
「酒わかんのか?」
「あたし飲まないからさぁ。あっ! でもラベル見ればなんとかなるっしょ」
 ロクは固まった。
「……やっぱやめとこ」
 そそくさとカウンターに戻るロク。
「えー! なんだよ! せっかくやる気になってたのにぃ」
「お前に任したらどうなるかわからん。だめだ」
「二人で初めてのチャレンジにワクワクしてたのにな、リーヴァ」
 隣にいたリーヴァはにっこりと微笑んだ。すでに腕まくりしている。やる気はあったようだ。
「ここはおまえの実験場じゃねーんだ。とにかく今日はやめた。また今度にする」
「もったいないじゃん。せっかく作ったのに」
 ロクは手に持った弁当の包みを見つめた。
「それもそうだな。おい! 有理、これを五月さんのとこに持ってけ」
「はぁ、あたしが?」
「今日の夕飯代はタダにしてやるから」
「え? ほんとに♪ わかった。行くよ」
 有理は弁当の包みを受け取った。
「食べるなよ」
「食べねえよ。五月さんのだろ? これ」
「見るなよ」
「見ねーよ」
「おまえもだぞ」
 ロクはデカイ顔を小さなリーヴァに近づけた。わかったのかわかってないのかにっこりと笑うリーヴァだった。
「じゃあ、いってきまーす! いこ! リー」
 包みを持って店から出て行く有理。その後をリーヴァが小走りについて行った。
「……大丈夫かなぁ」
 ロクは心配げに二人を見送った。

 入れ違いに店に誰かが入って来た。ずいぶんと大柄な男だ。
 店の客たちのざわめきが止まった。
「らっしゃ……あっ、あんたは……」
 店内の客は皆、その男の事を知っていた。カウンターに近づくその男の行動をずっと見守っている。男は視線に気
付いているのかいないのか平然としてカウンターの席に座った。
「いらっしゃい。"御通し"です」
 ロクは小皿に入った沢庵を出した。
「……ほう。今時、よく、こんなものが手に入るもんだな」
「自家製ですよ、俺が畑で作った。まあ、料理にしない切れ端使ったもんですから大したもんでもないでもないです。
スレイヤーズの司令官殿に出すには、ちょいとショボイですがね」
 客はにやりと笑った。
「いや、そんなことはない。沢庵は私の大好物なんだ」
「そうですか……」
「ありがとう、マスター。いや石井六輔三等陸尉」

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