輸送ヘリ"ブラックホーク"が防衛用の地雷原を飛び越えてスレイヤーズ本部に接近していた。
 見張りの連中が独特な回転音をさせて通り過ぎるブラックホークを目で追った。その日、スレイヤーズの本部は慌し
かったがそれは全てそのヘリに登場する"お客"のせいだった。
『こちらエコー1。着陸許可を求む』
 ヘリからの問い合わせに無線機の担当者がスレイヤーズ司令官、織田の顔を見た。
 織田は不機嫌そうな顔で何も言わずに頷く。
「こちらマザーグース。通常通り1番へリポートに着陸せよ」
 返信が入れられブラックホークは機首を地上に向けた。

 ヘリの姿が見えると同時に周囲に配置された何人かのスナイパーが照準スコープを向ける。
「ユニット1位置についた」
 ライフルの銃口はずっと着陸しようとするヘリを追っていた。
 地面に近づくとブラックホークは機首の角度を少し上に上げた。収容されていた車輪が姿を現し、コンクリート面に接
地する。
「タッチダウン」
 ブラックホークのパイロットはそう呟くと後ろを見た。
「着いたぜ。その化けモンをさっさと下ろしてくれ」
 ブラックホークのスライディングドアが開かれる。最初に降りたのは有理だった。
「こいよ。ハデス」
 有理はヘリの中に向って手招きした。
 大柄な緑の甲冑が姿を現す。それと同時に建物から完全武装した戦闘部隊が出てきた。皆、アサルトライフルを構
えて慎重に近づいてくる。
『こちらユニット2、対象を補足した。指示を待つ』
 無線機からの連絡が入り通信担当者が司令官織田の指示を待った。織田は無言で首を横に振った。
「各ユニット。そのまま待機だ」


 ハデスは地上に降り立つと周囲を眺めた。
「ここが話しに聞くスレイヤーズの本拠か。意外と殺風景だな」
「あたしもここは好きじゃないんだ。だからさっさと用事を済まして出て行きたい」
「用事?」
「あんたを届けること」
「俺は有理についていくだけだ」
「それじゃ迷惑なの! もう!」
 そう言って有理は頭をおさえた。
「有理さん」
 建物から出てきた武装兵が有理を見やる。
「あ? ああ、わかってる……ねえ! ハデスついてきて」
「だから有理についてくって言っているだろ」
「はあ……まあ、好きにして」
 有理はため息をつくと本部の建物に向った。
 本部のビルの窓や周囲の物陰から幾つのもの狙撃用ライフルがハデスに狙いを定めていた。
 しかし有理の後について建物に向うハデスをスナイパーたち以外に見つめる目があった。
 それは崩れかけた鉄塔の上に立ち有理とハデスを見守っていた。魔界アシール派の大物ロキだ。

「冥界の将軍ハデス? アシールにもヴァニールにも属さない奴が何故こんな所にいる?」

 ロキはそういいながら塔の鉄骨の上に座り込んだ。
 魔界の勢力アシールとバニールの争いは時空が繋がってしまった時点で人間の世界に大きなを影響を及ぼしてい
た。妖魔同士の争いは人間の住む街を破壊し人を巻き込んでいった。その結果が今の日本だ。そして政府の防衛組
織である自衛隊や民間の自衛組織であるスレイヤーズと熾烈な争いを繰り広げる事になった。

「だが面白い状況だ。奴を利用すれば上手くすると……」

 ロキは下を見下ろしながらそう言ってにやりと笑った。


 建物の中に入った有理はハデスを引き連れて廊下を歩く。その前後をアサルトライフルを構えた他のスレイヤーた
ちが囲みながら一緒に移動していた。
「まったくよお……」
 周囲を囲むスレイヤーの中には知った顔もいる。有理は気まずそうに頭を掻いた。
 やがて、広い扉の前にくる有理たちは立ち止まった。
「どうした? 有理」
 急に立ち止まった事で自分の身を心配したのか有理の様子に心配したのかハデスはその大きな顔を有理に近づ
けた。
「何でもないよ。ちょっと今から会う相手はちょっと苦手なんでね」
「有理がキライな奴か。俺が始末するか?」
「だ、だめ!」
 重いドアが開けられ有理とハデスが中に入っていった。
「よくやったな、有理」
 待ち構えていたのはスレイヤーズの司令官、織田設永だ。にこにこ顔で有理の顔を見ていた。
「えっ? まあ……こんなもんさ」
 視線を合さず頭を掻く有理。
「……と、いいたいところだが。あのね……有理くん」
「し、仕事はやったぜ? 写真も撮ってきたし報告もしたろ?」
「確かに頼んだ仕事はしてくれたけどね…誰? その後ろのは」
 織田司令官は有理の後ろにいるハデスを指さした。
 指差されたハデスは心外だといわんばかりにゼスチャーで抗議した。
「あーうるせーよ。でかぶつ。お前はひっこんでろよ」
「そんな冷たいぞ、有理」
「呼び捨てにするな! 馴れ馴れしい」
 織田は咳払いをした。
「仲がいいな」
「だ、だれが!」
 さすがの有理もマイペースなハデスには振り回され気味だ。
「見たところ妖魔のようだが?」
「妖魔? 人間はそう呼んでいるようだが我々自身はそういう呼び方はしてないよ。我々は我々自身を我々の世界で
は人という意味の言葉で呼んでいる」
「ほう、なんと?」
「発音が難しいからお前たち人間には無理だろう。だから妖魔でもいい」
「だったら余計なこというな!」
 有理が横から突っこんだ。
「いや、こういう事はきちんとしておかないと」
「変な所でこだわりやがって……」
「そんなに怒るな、有理。怒ると美しい顔が台無しだ」
 顔を赤くする有理。
「な、なに言ってんだ!」
 確かに有理の顔だちは決して悪くない。しかし、彼女の気性の激しさや行動的"過ぎる"性質の為、こうも面と向っ
てはっきり褒められたことはなかった。しかもハデスの言葉はあまりにも素直でそして自然だった。その事に有理は
大いに戸惑っていた。
「有理、変った友達だな」
「ともだちじゃねえーって! 大体、さっき知り合ったばかりだし」
「そうだ。人間のリーダーよ。我々は友だちではない」
 ハデスが横から口を挟んだ。
「将来のパートナーだ」
 有理の顔が固まる。
「パートナー?」
 織田司令官は眉をしかめる。
 ハデスは巨体に似合わない小さな声で言った。それは聞こえるか聞こえないかのとても小さな声だった。
「有理を花嫁に迎えたい」
 織田司令官の咥えていた葉巻がぽとりと落ちた。
「え? えええーっ! なんでーだぁ!」
 有理の怒鳴り声がフロア中に響いていた。







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