有理はバイクを草むらに隠すとライフルを背負って丘の下に下りていった。
 元は街だった様だが建物は破壊しつくされ瓦礫と鉄骨だけ。人の住んでいた面影は残っていない。ただ一ヶ所だけ
不思議な場所があった。そこだけに青々とした草が茂り花が咲いていた。
 有理はアサルトライフルを構えながらその場に身を伏せた。
「なんであそこだけ……」
 ライフルをスコープ越しに緑のオアシスというべきその場所を見る。するとそこに見えたのは重装なグリーンの甲冑
で身を固めた者だった。

 人間じゃない

 有理は直感的にそれを感じ取った。見掛けは確かに人間と似ていたが発するプレッシャーの様な雰囲気は妖魔と
呼ばれる生き物と同じだ。
 有理は静かにライフルの安全装置を外した。
「お前がこの騒ぎの原因かぁ……」
 有理はスコープの先に見える緑の妖魔に向って呟いた。
 ゆっくりと引き金に指が掛けられる。装填されているのは"聖弾"と呼ばれる特別なライフル弾だ。その加工工程は
簡単でほとんどが通常弾と変らない。ただ違うのはその弾丸には"祈り"が込められているということだった。科学的
な理由は分からないが魔界の生き物"妖魔"たちはこれに過激な拒否反応を示す。それは身体の分子を分解するま
でに至る。要するに致命傷になるのだ。
 有理は座り込む緑の妖魔に狙いを定めた。
 そうとも知らない緑の妖魔は大木に背を預け呑気に空を見上げていた。有理はふと違和感に気がついた。注意深く
妖魔の周りを見ると何故か草が青々と茂っていた。有理の潜む枯れ草とは大違いだ。その生命力を感じ取ったのか
いつのまにか小鳥も大木に集まっている。その中の一匹が緑の妖魔の頭上を飛んでいた。妖魔はそれに気がつくと
左手を差し出した。飛んでいた小鳥はその小指に止まる。
 有理の人差し指に力が入る。緑の妖魔が動いたら引き金を引くつもりだった。
 がしかし……
 妖魔の肩にさらに別の小鳥が止まった。妖魔をれを見つめるだけで何もしなかった。小鳥はまるで緑の妖魔を警戒
せずその肩で遊んでいる。

「ちっ!」

 有理は引き金から指を離すと立ち上がった。
 そして武器をライフルからハンドガンに切り替えると緑の妖魔の方に向って忍び寄っていった。



 緑の妖魔の肩に乗っていた鳥達が一斉に飛び立った。
 妖魔は小鳥達の察知した同じものに気付き横を見た。
 そこにはスカイブルーの髪をした若い人間の女が銃と呼ばれる武器を向けて立っていた。
「あっ……」
 気がついた妖魔は呆然と有理を見上げる。
「おっと動くな」
 有理は聖弾の装填されたグロック17を構えながら緑の妖魔に言った。
「人間か? お前」
「ああ、そうさ。そしてここは人間の土地だ。お前はここで何してるんだ?」
「何って……見てのとおりだよ? 」
 緑の妖魔は手を広げて見せた。
「動くなって!」
 有理のグロック17の銃口が突きつけられる。
「何もしない。気持ちのいい昼寝をしただけさ」
「すごい爆発があったって聞いた。昼寝なんてできるかよ」
「爆発……それでこの辺りはこんなになっているのか」
「自分でやっておいて何言ってる」
「俺じゃない。きっと魔界の瘴気が吹き出たんだろ? それでこの世界へのルートが出来きたんだ。そこを通ってきた
のさ、俺は」
「ルート? 魔界とのか?」
「そうだよ。この世界はそうやって魔界との出入り口を増やしている」
「そのせいで皆、迷惑してんだ」
「だがそいつは偶然、我々の次元とお前たちの次元と交差した結果だ。我々のせいじゃない」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないよ。まあ好きにすればいい」
 緑の妖魔は手を頭に組んで再び大木に寄りかかった。
「おいおいおい! 何してんだ! 自分の状況を考えろよ」
「状況? お前の武器で俺が殺せるとでも? 」
「ああ、聖弾は、お前たち妖魔にとっては命取りだからな」
「では、やってみればいい」
「なめるなよ」
「そんなことはない。好きに試せばいいと言っているんだ」
「ちっ」
 有理はグロック17を構え直す。
「ちょっとまて」
「な、なんだよ! 危うく引き金を引くとこだったじゃないかよーぉ!」
「すまないな。ちょっと聞きたいことがあってな」
「何だよ」
「お前、もっと前から俺を狙ってたろ?」
「気付いてたのか……そうだよ。200メートルくらい先からお前を狙ってた」
「何故、その時、攻撃しなかった?」
「何故って……その……」
 グロックの銃口が僅かに下がる。
「悪党にも思えなかったからだよ。あんた……」
「悪党? 俺が?」
 緑の妖魔はゆっくりと立ち上がった。その大きさは有理をはるかに越えていた。
「おい、動くなって!」
「分からん基準だな。お前は相手の基準を容姿で判断しないのか」
「わかんねーけどよ……あたしには、そん時あんたが邪悪なモンも見えなかった。だけどあんたは妖魔だ」
「妖魔はおまえたちが勝手につけた総称だ。あまり、いい意味ではないらしいが。だが妖魔の全てが無秩序に他の
世界を破壊するとは限るまい」
 有理の脳裏にリーヴァの顔がフラッシュバックする。
「あ……ああ、そうかもな」
「いい答えだ」
「けど、あたしはあんたら妖魔を狩る仕事をしてる」
「妖魔殺しの人間か。気に入ったぜ」
「だからぁ動くなって!」
 風が吹いた。
 有理の青みがかった髪が風に煽られなびいた。
 緑の妖魔は有理の言葉を無視して跪くと足元の花を根っこごと摘み取った。
「俺の名はハデス」
 そう言うとハデスはその花を有理に差し出した。
「はぁ? 一体なんのつもりぃ?」
 予想外の妖魔の行動にさすがの有理も焦った。
 跪いたハデスは真っ直ぐに有理を見上げた。
「お前に惚れた」
 呆気にとられ妖魔を見た。
「は、はあ〜ぁ?」






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