|
改修中の居酒屋"WWE"に常連の男が駆け込んできた。
「大変だよ。ロクさん! 大変!」
「なんだ、騒々しい」
「有理が、有理が……」
「また何かしでかしたか? あの馬鹿」
「ここから出てくって」
「はあ?」
持てるだけの食料をバッグに詰めると有理はそれを背負った。
「さあ、いくか」
有理はレーヴァの手をとった。
五月から借りた古びたマンションの部屋から出て行こうとした時だった。ロクと五月たちが駆けつけてきた。
「おまえら、どこに行く気だ?」
「魔界のクソどもがレーヴァを狙ってる。安全なとこに隠れるんだよ」
「他に安全なとこなんてあるか。ここは結界もあるしストライカーだって沢山いる。魔界の連中だった簡単に手を出せる
ところじゃない」
「そうかな? 巨人はやってくるし、おかしな甲冑連中も。そうそう。それから本部にもロキとかいう何かワケのわから
ない奴が入り込まなかったっけ? つまり、ここも危険だってことなんだよ。どけって!」
ロクが立ち塞がった。二メートル近いロクが小柄な有理を見下ろして睨みつけた。
「確かに妖魔も入り込んでくる継ぎはぎだらけの結界では不安かもしれん。だがな、結界のない外はもっと物騒だ
ぞ。ここなら対応できる」
「しるか! とにかく出て行く!」
「行くと言うなら俺を倒してからにしろ!」
ロクの顔面に遠慮なくパンチが飛んだ。
「うおっ……」
鼻を押さえるロク。指の間から鼻血がポタポタとこぼれ落ちる。
「待って! 有理さん」
こんどは五月が有理の前に立ち塞がった。さすがに有理も五月には手を上げられなかった。
「さ、五月さん……」
「ロクさんの言うとおりよ。確かに不安かもしれないけど、ここの方が反撃もし易いわ」
「でも、五月さん……」
「ここならあたしもロクさんもいるしリーヴァちゃんのカバーもできる」
有理は目を逸らした。
「だから……ねっ」
五月は有理の肩に手を置いた。
有理は頭を掻きながら気まずそうな顔をした。あまり他人の言う事は聞いたためしがない有理だったが五月の言葉
にだけは耳を傾ける。
「五月姐さんがそんなに言うなら……」
その時だった!
廊下の先からものすごい殺気を感じた。
とっさに五月の腕を掴み、自分の背後に回す。
「ど、どうしたの? 有理さん」
「なんか、ヤバイ感じがする。下がって、五月さん!」
有理は廊下の先を睨みつけた。
「矢追有理は、おまえか?」
灯りのない廊下の先は暗闇だった。その暗闇の中から女の声がした。殺気を感じる嫌な声だ。
「だれだ、てめえ」
「矢追有理ってのは、お前なのか?」
「……だったらどうだってんだ」
有理は銃のグリップに手をかけた。
「ふふふ、情報どおり好戦的だ」
女は写真と見比べた後、にやりと笑った。
次の瞬間、コートを翻すとMP5Kサブマシンガンを抜き出した。
「やばっ!」
有理はとっさにドアを開けて盾にした。銃弾が鉄製のドアにはじき返される。
「ちっ!」
女はサブマシンガンのカートリッジを交換した。
「五月さん、危ないから入っていて。リーヴァを頼む」
「有理さん」
「大丈夫だって。すぐ片付けてやる」
ドアを閉めると女はMP5Kのカートリッジの交換に手こずっている。
有理はチャンスとばかりにグロックの引き金を引いた。
それに気付き、一瞬で身を翻して弾を避けると塀を乗り越えて下に飛び降りた。
「待て!」
有理も女の後を追い飛び降りる。
「……いてて」
通路に倒れていたロクが起き上がった。
銃声が響き渡るマンションの下では有理と女が撃ち合いをしている。
「あん? あの女は……?」
ロクはその黒髪の女に見覚えがあった。
|