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ロクの軽バンはひび割れたアスファルトの上を走っていた。
目指すのは銀座。
「ここは昔、商店街があってね。崩壊前は賑やかだったけど、今は閉まってる店の方が多いわ」
「それと紫と何が関係あるってーの? 五月さん」
有理が頭に腕を組みながら言った。
「紫が残した白い花で気がついたの。今の世の中、花って貴重でしょ? 手に入れるのは限られていると思うの。そ
こには、いまだに花売りを商売にしてる店がそこにあるのよ。昔からのお店でね。おばあさんがやってる」
「そこに紫がいるってーの?」
「……それはわからない。けれど、それって唯一の手がかりじゃない?」
「……うーん。そうだよね」
有理は窓から顔を出した。
気持ちのいい風が有理の顔を撫でる。
軽バンは一軒の店の前に停まった。
車のドアが開けられた。有理と五月が降りた。
「リーヴァはここで待ってな。おい、ゴリラ、リーヴァの面倒をみとけよ」
「だれがゴリラだ! 俺には五月さん護衛をしなけりゃ……」
「大丈夫ですよ、ロクさん。有理さんがついてるし」そう言って五月はニコリした。
「え!? ぬぅ……おのれ…有理め」
有理と五月は店に入っていった。
「ごめんください……」
店先には欠けたプラスチックのバケツに菊やら百合やらが入れられていた。
「あっ……百合だ」
それは紫が有理に放り投げられた花だった。
薄暗い店の奥から腰の曲がったおばあさんが出てきた。
「いらっしゃいませ。おや? だれかと思ったら甲賀さんとこの……」
「お久しぶりです。真田のおばあさん。お元気ですか?」
「いい塩梅(あんばい)だよ。五月ちゃんこそ珍しいねぇ」
「ちょっとひさしぶりに花でもと思いまして。百合の花ありますか?」
「ああ、百合の花ね。今週jは、よく売れるねぇ」
有理たちは顔を見合わせた。
「ばあちゃん、他にも百合の花を買いに来た客がいたのかい?」
「おや、五月ちゃん、ボーイフレンドかい?」
「ぼ、ボーイ……」
有理は絶句した。
「違いますよ。おばあさん」五月は笑顔で言った。内心、勘違いされた有理が可笑しくってたまらなかったが大笑いす
るのは我慢した。
「あら? そうなの? そうだよねえ……あんたには鉄夫さんがいるものねえ。ねえ、おにいちゃん。あんたも女の子
に花くらい贈らなきゃぁもてないよ」
「(だから、にーちゃんじゃねえよ! ババア!)」有理の心の声。
「ところで真田のおばあさん。百合を買いに来たそのお客って覚えてますか?」
「うちにはあんまりお客は来ないからねえ。でも1ヶ月に1回来るんだよ。刀を差した物騒なお人がね」
「刀を……?」
「ああ、そうさ。それが不思議でね。いつも高額紙幣を出すんだ。釣りはいらないみたいでお金を置くとすぐ帰っちゃう
んだ。それに黒い頭巾で顔を見せないんだよ。手も黒い手袋をしているし……ただ」
「ただ?」
「どこかで会った気がするんだよねえ……もっと顔がよく見えればはっきりするんだけどねえ」
それから他愛も無い話を少しした後、花を数本買い、店から出た。
「どうでした? 五月さん」
車で待っていたロクが声をかけた。
「月に一回やって来るお客がどうも…ね。紫かもしれない。先週も来たらしいけど」
「マジですかい?」
「ただ、紫がこの店に来る理由がわからない」
「習慣ってやつはそう簡単に変らないもんです。これも紫の単に習慣でしょう」
「……そうなのかしら」
「それに月に一回だったらもう今月はもう済んだってことだ。ここにいても無駄ですよ」
有理はぼんやり花屋を見つめていた。
「なっ、有理」
「え…? ああ、そうかもね」
半分、上の空といった感じだ。
「どうしたの? 有理さん」
「ねえ、五月さん。あのばーちゃんってさ、クリスチャン?」
「え? 違うと思うけど……なんで?」
「店のだって店の奥に十字架がチラっと見えたよ」
「十字架?」
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