3、荒野に咲く白き花はE




 夕暮れ時だった。
 真田のばあさんは店の片付けを始めていた。
 夕陽が作る影が真田のばあさんを覆った。ふと顔を上げる真田のばあさん。
「おや? あんたは?」
 そこに立っていたいたのは有理だった。
「何か忘れもんかい?」
「ねえ、ばーちゃん。ちょっと聞いていいかな?」
「恋の悩みかい?」
「そ、そんなんじゃねーよ。あのさ、あの奥の写真って見せてもらっていい?」
 最初、十字架だけ見えたのは実は黒いTシャツに十字架をかけた人の写真だった。
「奥の?」
 真田のばあさんの顔が強張った。
「……だめ?」
 有理は静かに言った。
 真田のばあさんは有理の顔を見つめた後、少し考えた後、呟くように言った。
「……そんな、哀しそうな目をされちゃあね……なんかワケありってことかい? まあいいさ、減るもんじゃないし」
 そう言って有理を店の奥に入れた。
「孫娘だよ」
 真田のばあさんは仏壇に飾ってあった写真を拝んだ。黒髪の可愛らしい少女で首には十字架のアクセサリーがか
けられていた。夜店で売っているような銀メッキのものだ。

「あの……仏壇に飾ってけどさ。この子死んだの?」
「どうだかね……娘夫婦が亡くなってあたしが引き取ったんだけどね……あるとき、あれだよ、あれ…ホストってのか
い? そいつにハマっちゃってね。家を出たっきり帰ってこないんだよ。そのうちこの災害だろ? もうあきらめてんだ
けどねえ……」
 有理は写真の少女を見つめた。髪型も眼つきも違うが、あの殺し屋"紫"の面影がある。ただ、紫の眼はとても冷た
く瞳も金色だ。この写真の少女の眼には優しさを感じることができる。
 気がつくと真田のばあさんが涙ぐんでいた。どうやら思い出したくない事を引っ張り出してしまったらしい。
「ご、ごめんね、ばあちゃん」
「いいよ。あたしこそ悪かったねぇ。こんな優しいおねえちゃんを捕まえて"兄ちゃん"なんてね」
 そう言って真田のばあさんは笑った。
「えっ? 知ってたの?」
「途中で気がついたんだよ。お金を貰ったときにね。その指は男の指じゃないよねえ」
 有理は自分の指先を見た。気にした事はなかったが確かに男の指に比べると細いし小さい。
「そっかぁ……ところで、ばあちゃん。もしお孫さんが戻ってきたらどうするの?」
「どうするも、こうするも……まずはご飯だね。あの子……タマゴかけご飯が大好きでね。だからタマゴだけは残して
おくようにしてるんだよ」
 そう言って真田のばあさんは嬉しそうに笑った。その頭の中では、きっと孫にご馳走しているのだろう。
「そう……」
 有理はもう一度、写真を見た。記憶の顔と写真を見比べてみる。
 やはり、これは紫だ。けれど信じられないほどの笑顔をしたこの写真と有理を襲った殺し屋とはギャップがあり過ぎ
だっだ。
「あっ、ばあちゃん。これ、くれない?」
 有理はバケツの中の花を一本とると金をそばのテーブルに置いた。
「じゃあ、ばあちゃん。また来るよ。今度はタマゴ持ってくるからさ。花と交換してくれよ」
「あらあら、変な気を使わないでいいよ。タマゴは貴重なんだから手に入れるのも大変でしょうに。ウチには鶏がいる
から……」
「ばあちゃんこそ気つかうなよ。こう見えてもあたしってスレイヤーなんだぜ?」
「すとらいか?」
 真田のばあさんには分からないようだ。
「ああ…っまいいや! じゃあね! ばあちゃん、花、ありがとね!」
 有理は店から飛び出した。走り去る有理をしばらく見守ったあと、真田のばあさんは仏壇の写真を見た。
「いい子だねぇ……お前といい友達になれるかもしれないねえ……」
 真田のばあさんは、テーブルに置かれた札をとると、花一本にしては額がかなり多い事に気がついた。本来なら数
十本は買える金額だ。


「はあ、はあ……もういいかな?」
 店から随分、離れたところでようやく有理は止まった。
 周囲を見渡した。昔の商店街の場所だった。しかし今はどこもシャッターが閉められている。
「出てこいよ!」
 有理は息を落ち着かせた後、叫んだ。
 背後の電柱で何かが動いた。
 有理はホルスターのグロックに手をかける。
 黒いロングコート着た紫がゆっくりと姿を現した。


3、荒野に咲く白き花はF
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