3、荒野に咲く白き花はG
二稿目




 だ、だめか!
 有理があきらめかけたその時だった。刀の刃先が直前で止まった。
 ゆっくりと目を開ける有理。
 紫は哀しげな表情で有理ではなく別のところを見ていた。
 紫の視線の先には老婆が立っていた。有理に忘れたお釣りを渡す為に追いかけてきたのだ。
「おばあちゃん……」
「由紀? おまえ、由紀ちゃんかい?」
 紫の表情が固くなった。
「あんた、何してんの……そのおねえちゃんはとっても、いい子だよ」
 目を逸らす紫はうつむいた。
「仕事だって……」
「由紀ちゃん。そんな仕事やめなぁ。由紀ちゃんはもっと優しい子だに……」
 真田のばあさんは涙を浮かべて訴えた。
「いまさらやめられないよ、おばあちゃん……私の手は血まみれなんよ」
「そんなことないよ……そんなことないよぉ」
「由紀ちゃんは、おばあちゃんには優しい子だったろ……もうやめなぁ」
 紫はうつむきながらブレードを下ろした。
「おばあちゃん……私……」
 その時だった紫の身体を何かが貫いた! その場に崩れ落ちる紫はブレードを地面に刺してなんとか倒れるの防い
だ。
「まったく、仕事はちゃんとやってもらわないとぉ……」
 そういって物陰から姿を現したのはハンチングキャップにメガネをかけた男だった。
「ロキ……何を……」
 紫は口から血を吐いた。
「僕は嘘つきと、やる気のない奴って大嫌いなんだよね」
 有理が紫の前にかばうように立ちふさがった。
「ゆ、有理……」唖然とする紫。
「ロキ!てめえ!」有理はグロック17を薄ら笑いを浮かべるロキに向けた。
「おいおい、君の敵をやっつけたんだぜ」
「何が敵だ! お前が仕向けたんだろうが!」
「ははは! いいねぇ有理。君みたいに攻撃的な奴は大好きだよ。君も妖魔だったらよかったのに」
「あほか! 死んどけ!」
 有理はロキに向けてグロックの引き金を引いた。しかしそれを軽々と避けたロキは建物の屋根に飛び上がった。
「おいおい君とはやりあう気はないんだ。今はね」
「うるせえ! くたばれ」
 さらにグロックを撃ち続けた。
「はははは! 有理、またね! 今度は本気でレーヴァテインを頂くよ! 気合いれといてねー!」
 そう言い残すとロキは闇の空に溶け込むように消えていった。
「ちっ! 最高にムカつく奴だ」
 有理はグロックをホルスターに収めると紫にかけよった。
「おい、大丈夫かよ!」
 心配げに紫を抱き起こす有理はそう声をかけた。
「……ふふ、おばあちゃんの言うとおりホントにいいヤツだね。あんた」
「な、なに言ってんだよ」
「心配ないよ……」
 流れ出していた血が止まった。
「あれ?」
 紫がにやりとする。
「けた外れの再生能力。これがバンパイアの能力」

「由紀ちゃん!」
 真田のばあさんが紫に駆け寄った。
「ごめんね……おばあちゃん」
「由紀ちゃん……これ?」
 真田のばあさんは治癒していく紫の傷を見て驚いた。
「……気持ち悪いでしょ? これが今の私なの」
 そう言った紫の目には涙が浮かんでくる。
 真田のばあさんは首を横に振る。
「そんなことない。そんなことない」
 真田のばあさんは首を横に振って何度も何度もそう繰り返した。
「おばあちゃん……」
 有理は立ち上がると紫を見下ろして言った。
「紫さん……今のあんたは、昔と違うかもしれない。でもね、きっと変ってないものもあるはずじゃない? ばあちゃん
にはそれが分かってるし、それが何のかあたしにも分かる気がする。あんたは人間だよ」
「矢追有理……」
「紫さん。あたしを狙ったのは吸血鬼の情報が欲しかったからだよね?」
「……うん」
「じゃあ、その情報さえ入ればあたしを狙わない?」
「もういいよ……あんたを殺る気なんて失せちゃったから」
 有理はにやりとした。
「でも分かるもね〜。その吸血鬼の事」
 紫と真田のばあさんは顔を見合わせた。


3、荒野に咲く白き花はH
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