「コマンチが先制攻撃をして対空火器を沈黙させる。その後は"ファイヤーバード"が残存戦力を叩き潰す」
 隊長は移動司令本部との通信が終わった後、そう告げた。
「ヘリ部隊の攻撃の後、"儀式"の開始だ」
 儀式とは吸血鬼に対する殲滅作戦のコードネームだ。超自然的はことを行なうわけではない。ただ単に心臓に杭お
打ちつけるか紫外線の放射を行なうだけのことだ。神父の祈りも妖しげな呪文もない。

 儀式というより"狩り"だな。

 ブラックウェルは作戦の説明を聞く時いつもそう思う。吸血鬼の力は人間よりも遥かに強い。暗闇の中を暗視カメラ
なしで行動でき、しかも素早い。正面切って対決すれば殺傷するのはかなり困難だ。そこで吸血鬼の最も無防備な
時。眠りについている太陽の時間。その時間帯を狙っての奇襲を常としてきた。



「ロックンロールだ!」
 隊長機から各機に指示が出た。アパッチはエンジンをサイレントモードにしながら、ゆっくりと移動を開始した。
 そしてその更に後方には2機の輸送ヘリ"ブラックホーク"がホバーリングして待機していた。中の特殊部隊"クワイ
ヤーボーイズ"の隊員たちは黒い鋼鉄の戦士たちの出撃する様子を見守っていた。

 ブラックウェルがこの部隊に配属されたのは一年前だった。彼は既に27回の作戦に参加している。いつも緊急の
召集、そして世界の各地に飛ぶ。まったく慌しい作戦だ。
 彼の以前の職場も似たようなものだったし秘密主義なのも同じようなものだった。
 それまでは英国特殊部部隊"SAS"に所属していた。
 "SAS"は最も古い特殊部隊のひとつだ。各国に設立されている特殊部隊の多くは、この女王陛下の特殊部隊を
モデルにしていた。 相手が人間ではない事を除けば"クワイヤーボーイズ"もそうである。
「よう、噛むか?」
 そう言って噛み煙草を差し出したのは横に座る相棒のコルテス。米国陸軍特殊部隊"デルタフォース"出身のこの
男は陽気な時が多く、プレッシャーなど感じそうにないように見えた。多少、神経質な所のある ブラックウェルとなぜ
か気があった。
「いや、いい」 ブラックウェルはコルテスの申し出を丁重に断る。
「なあ、おい、聞いていいか?」
「なんだ?」
「イギリス人はこんな時は紅茶で気を落ち着かせるのか?」
 コルテスはニヤついてそう言った。
「違うな。こんな時は俺達はウイスキーをがぶ飲みするんだよ」
「はははっ! いいね、俺の好みだ。見習いたいね」

 機内にいるのは作戦に何度も参加している者たちだった。しかし、作戦直前の緊張感は未だに慣れない。ブラック
ウェルもそうだ。これから相手にする者たちのことを考えるとどうしてもそうならざる得なかった。奴らは普通の人間で
はない。尋常でない力を持つ吸血鬼だ。殺すには特殊弾頭の銃弾か杭を心臓に打ち込むか、首を切り落とすしかな
い。
「よく聞け! "クワイヤーボーイズ"!」
 隊長が声を張り上げた。
「今、アパッチが出発した。俺達の出番もすぐだ! 覚悟しとけ!」
 ブラックウェルたちは再度、装備の点検を始めた。

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