輸送機の中でロクは夢を見ていた。
 ロクを残し全滅した部隊。死んだ上官のことを最愛の女性に伝えること……
 すべては数年前のことだった。
「目標に近づいた」
 ロクはパイロットの声に目を醒ます。
「聞こえたか?」
「おお……起きてるよ」
 輸送機は街の上空に到達した。
「GO!」
 合図と共にロクは後部ハッチから飛び出していった。風の音だけが耳に入ってくる。それ以外の音は一切ない。
 数百メートルを降下したところでパラシュートが開かれていった。




 久しぶりの降下にしては上手くいったと彼は思った。肋骨も折っていないし打撲もない。上々だ。
 パラシュート装備を埋めると周囲を警戒しつつGPS装置を取り出す。
 少し逸れたな……
 ロクは目標を目指すべく立ち上がった。
 しばらく進むと廃墟らしき場所に出た。ここを抜ければ空自の基地だ。そこには米軍より譲渡された"ある物"が置
かれていた。ロクの任務は街の状況だけではなく基地の様子も確認することなのだ。妖魔が"ある物"に気付いてい
るのか? あるいは知らずにいるのか? だが陸自を辞め、スレイヤーの仕事も止めたロクにとってそんな物の確認
など、どうでもいいことだった。ロクの真の目的は違うのだ。
 彼は確かめたかった。かつて自分の命を救った男が生きているのかと、
 愛する女性の愛する人が生きているのかと……。

 何かの気配を感じすぐに物陰に隠れるロク。昼なお暗い廃墟のどこからか助けを呼ぶ声に気づく。身を潜め周囲を
警戒するロクが目にしたのは異様な蟲の群れに追われる子供たちだった。
「ちっ…」
 ここで発砲すれば敵に気づかれる。ロクは迷った。
 こんな時、あいつなら……
 ふいに頭に浮かんだ”あいつ”有理の顔にロクはハっとした。
 あいつなら考えなし助けるだろうな……
 ロクは苦笑しながら照準器で狙いを定めた。


 子供の一人が転んだ。他の子供たちは助けるか躊躇してしまう。相手はあっという間に人を喰いつくす地獄の蟲な
のだ。叫び声があがる! 蟲たちが襲い掛かった!
 銃声!
 蟲は撃ち込まれた焼夷弾で四散した。
 呆気にとられる子供。生き残った蟲はさらに追撃しようと炎を回避して子供に迫る。そこをさらに焼夷弾が撃ち込ま
れる。四発目を撃ち込んだ時、蟲たちは暗闇に姿を消していた。
「わぁ……」
 呆気にとられる子供の目の前に大柄な男が姿を現した。
「うわっ!」
 ロクは慌てて逃げようとする子供の襟首を掴んだ。
「俺は味方だ。安心しろ」
「え?」
「そっちのガキどもだ! 隠れてないで出て来い!」

 腰を抜かした子供を引っ張り起こすロク。物陰から子供の友達たちが姿を現す。
「おまえたち…仲間を決して見捨てるな」
 炎に照らされるロクの横顔はどこか寂しげだった。
 しばらくして瓦礫の陰に身を潜めていた子供の仲間がそっと顔を出し始めた。
「とって喰ったりしない。聞きたい事があるんだ! さっさと出て来い!」
 半分、脅すような声だったが、子供たちは警戒しながらも姿を現した。
「おじさんだれ?」
「おじさんじゃねえ! ロクさんだ」
 子供たちは顔を見合わせた。


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