「突然、沸いてでたんだ。スレイヤーズはいたけどあっというやられちゃったよ。結界は張ってあったのにさ……」
 そう言って少年は転がる石ころを蹴飛ばした。
「自衛隊の基地? さあ? おれんちは離れてるから……でも、自衛隊は何もしてくれなかったよ。それって、逃げ出
したかヤラれちゃったかだよね」
「どんな妖魔だった?」
「蟲を見たろ? あれだよ。その中を兵隊のような格好をした幽霊みたいな連中がいた。きっと蟲を操っているのはあ
いつらだ」
 兵隊の格好?
「それってこんな連中か?」
 ロクは自分が昔のいた部隊の集合写真を見せた。
「うーん……似てるっていえば似てるよね。こんな感じだったかも」

 やはり甲賀隊長なのか……?

 ロクは少年に手持ちの携帯食料を渡した。
「あ……ありがとう。おじさん」
「おじさんじゃない。ロクさんだ」
「ありがとう、ロクサンさん」
「いや、ロクが名前で……まあ、いい。じゃあな。元気でな…それから! おまえたち……仲間は決して見捨てるな」





 GPSをたよりに進んだロクは数時間後、空自の基地のフェンスそばにいた。
 草むらに身を隠し周囲の様子をうかがっう。
 誰もいない……出払ってるのか元々いないのか?
 腕時計を見るとまだ昼間だったが空は薄暗く夕方のようだ。ロクはナイトビジョン装置付きの双眼鏡で基地を見た。
やはり何の動きもない。破壊された箇所もない。
 いけるか……?
 ロクは意を決して侵入を試みる事にした。ペンチで金網を切ると中に入り込んだ。
 見取り図を頼りに格納庫に向かう。

「あれか……」

 戦闘機の格納庫らしき施設を見つけるとそこに向かった。鍵は掛かっていない。ロクは錆びついた鉄の扉をこじ開け
る。
「……ビンゴ」
 中には旧式のA-10攻撃機が置かれていた。自衛隊では採用していない機体だ。問題の"機体"に間違いない。

 ロクが、そばに近づこうとした時、電灯が灯される。
 誰かいる!
 ロクはアサルトライフルを構えた。
 壁の隙間から何かが染み出してくる。蟲だ! 大量の蟲たちが這い出てくる。
「しまった!」
 ロクは、あっという間に蟲に囲まれた。
 気がつくと、いつの間にか攻撃機の機首の上に誰かが立っていた。
「こ、甲賀隊長?」
 戦闘服に身を固めた男が腕を組んでロクを見下ろしている。蟲の群れが盛り上がっていった。それは人の形になっ
ていった。しばらくすると5人の戦闘服の兵士たちが蟲の群れの中に立っている。
「木田? 赤木?」
 皆、ロクの見覚えのある者たちばかりだ。しかし、その姿は異様だった。着ている戦闘服は破れ、昆虫の足のよう
な物が突き出している。
「おまえたちなんで……?」

「イシイリクイ……」
「ギギッッ……イシイリクイダ…」
「オレタチ ヲ ミステタ オトコダ……」
「ちっ違う! あれはお前たちが全滅したものと思って!」
「グレツナ……オマエ ニハ ジソンシンハナイノカ?」
「ソウダ……コウナッタ ノハ スベテ オマエ ノ セイダ…」
「くそっ! お前ら! どうかしてるぞ」

「無駄だよ、ロク」
 低い物腰の静かな声が響いた。攻撃機の上に立つ甲賀だ。
「そいつらに残っているのは後悔と恨みの念だけだ」
「あんた本当に甲賀隊長ですか?」
「少し変わったが生き延びるためにしかたがなかった。昔に比べると少々見栄えは悪いがこれでなかなか快適なん
だ。妖気の濃いフィールドでは特にね」
「……隊長」
「元気そうじゃないか、ロク。何しにきた? 戦争ごっこをまだ続けているのか?」
 ロクは黙っていた。
「大方、こいつが目的だろ?」
 甲賀は機体を軽く蹴った。
「分かっている。こいつは”通常弾頭にあらず”だ」
「あんた、何する気だ?」
「何って兵隊の本分だ。命令を実行するのみ。これは”ある御方”の為に死守する」
「命令? 妖魔掃討が最後の任務だったはずだ。だがアンタの蟲たちは人間を襲ってたぞ」
「だれがクソ幕僚部の命令だといった? 俺たちは俺たちの命を救ってくれた方の為に動いている」
「あんたたちの命を? だれが……」
「"炎の女王"……それが今の我々の主人だ」
「それはあんたを怪物に変えちまった妖魔の何かだろ。目を覚ませ」
「いいか、ロク。俺たちは一度死んだんだ。もはや人間ではない。人間でないものが人間でないものの為の動くのは
当然だ……」
「五月さんはぁ!」
「何?」
「五月さんはなあ……今もあんたの事を忘れられずににいる。アンタが死んだって聞いても心のどっかでアンタが生き
てるって思ってる! あのヒトは、いまでも…今でもアンタが帰るって信じてるんだ!」
 甲賀は何も答えなかった。
「だから…だから俺はこの任務を引き受けたのに……」
 突然、甲賀は笑い出した。格納庫全体に響く大声でだ。
「何を言いい出すかと思ったら……」
「こ、甲賀さん…?」
 甲賀の態度に呆気にとられるロク。
 彼は決してそんな男ではなかったはずだ……恩人の変りようにロクは少なからずショックを受けていた。
「面白い奴だ。ロク。昔からそうだったな? ロク」
「笑うとこじゃねえぞ……」
 ロクの声が低くなっていく。
「五月? 五月がなんだって? 未練がましい馬鹿な女だ。それよりロク。俺がいなくなって内心喜んだんじゃない
か? ほら、おまえさ、小さいころから五月のこと好きだったろ? 絶好の機会が訪れてたってわけだ。ところで五月
とは寝たのか? え?」
 銃声が鳴り響いた。銃弾は甲賀の足元に穴を開けていた。
「危ないな……ロク。こいつが装備しているのは”特殊弾頭”なんだぞ。当たったらどうするつもりだ?」
「……核がどうしたってんだ」
「何?」
「核がどうしたってんだ! コラ! 今、俺の頭の中はとっくに核爆発を起してるんだよ!」
 ロクの表情はすっかり変わっていた。
「はははは! いい”気”だ、ロク。俺たちに随分、近い」
「甲賀隊長。俺はあんたのことを兄貴みたいに思ってた時もあったが……今は、すっかり腐っちまってるな。もう俺の
知ってる甲賀アニキじゃねえ!」
「だったらどうだっていうんだ?」
「”本分”を遂行するのみだ!」
 ロクは持ったアサルトライフルを甲賀に向かって撃ちまくった!。一瞬で姿を消す甲賀。蟲の中からかつての仲間た
ちが飛び掛る。とっさにライフルに取り付けてあったグレネード弾を撃ち込む。妖魔と成り果てた者の体は砕け散っ
た。
 次の弾を装填するロク。背後から凄まじい殺気を感じる。
「しまった!」
 巨大な昆虫の触手がロクの肩を貫いた。
「ぐわっ!」
 触手はロクを持ち上げていった。その根元に甲賀が立ていた。触手は甲賀の背中から延びたものだった。
「人間め」
「……甲賀アニキ」
 背中からもうひとつの触手が飛び出るとロクに狙いを定めた。
「死ね! ロク!」
 ちっ! これまでか……すみません、五月さん……

 その時だった! 
 倉庫の屋根が突き破られ誰かが飛び込んできた。触手が一瞬で切断される。周囲に緑色の液体が飛び散った。ロ
クは地面に落ちる。
「ギィィッ!」
 甲賀が人間とは思えない唸り声を上げる。

 何があったのか分からず周囲を見渡すロク。その上にいきなり誰かが落ちてきた。
「ゲホっ!」
 思わず息を詰まらせるロク。
「あっ、悪りぃ 悪りぃ、へへへ」
 気まずそうに落ちてきた誰かは水色の髪を掻いた。
「ゆ、有理……テメエ。なんでここに?」
 名刀"虎鉄"を振りかざして有理は叫んだ。
「水くさいぞ! コラ! こんな楽しそうなこと一人でやってよ!」
「遊びじゃねえ。こいつは……こいつはな……」
「分かってるよ」
 ニヤリと笑う有理。その微笑は、いつとも少し違う優しいものだった。
「あっ……ま、まあいいさ」
 照れながら目をそらすロク。
「ここからは任せろよ」
 有理は虎鉄を甲賀に向けた。
「やい! クソ妖魔! ゴリラを虐待しやがって! オメー動物愛護って言葉をしらねーのか!」
「誰がゴリラだーっ!」ロクが怒鳴った。

「これは、また活きのいいのが飛び込んできたな。おい、オマエも死にに来たのか?」
「アホー! 死ぬのはオメエだ! っつーかテメーはもう死んでるんだよ! 気づけ!天然ボケが!」
 有理は虎鉄を構えた。容赦なく触手が四方から飛び掛る。その先端は鋭く尖っている。
 緑の血が飛び散り煙を上げた。
 地面に落ちてのた打ち回る数本の触手。根元は血を噴出しながら主の元に戻っていった。
「ただの刀でなないな……やるじゃないか、小娘。一体、何者だ?」
「矢追有理! 関東一のスレイヤーだ! 覚えておけ!」
「有理だと……? その名前、聞いたことがあるぞ。そうか……おまえが、リーヴァテインを奪った人間か」



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